10時間の寄港時間でめぐるアマルフィ&ポジターノ

写真・レポート 乗船コーディネーター 喜多川リュウ
 

6:15

日が上る30分前、展望デッキに上がると、すでに乗客たちが集まっていた。
今日はいつもよりも数が多い。だれもがコーヒーを片手に船の行く手をじっと眺めている。
みなアマルフィの素顔を一目見ようとやってきたのだろう。
険しい山間にうっすらと見えるアマルフィはまだ眠っている。
速度を落とした船は、静かに確実にアマルフィに忍び寄る…。

 
 
 

6:45

東の空から太陽が顔を出した。
突然スポットライトを当てられ女優のように、アマルフィは瞬時に表情を変えた。
このドキリとする劇的な瞬間は船からでないと絶対に出合えない。
展望デッキでは、そのあまりの荘厳な美しさに吐息が漏れる。
 

7:30

こんな日の朝食はオープンデッキの「テラスカフェ」に限る。
バイキング料理から好きな物を選んでプレートに乗せ、デッキ最後部のテーブルに陣取る。
アマルフィを眺めながらの贅沢な朝食だ。
笑顔のウェイターがすぐにコーヒーを注ぎにくる。
香ばしいコーヒーの香りと潮の香りとが入り混じる。
 

8:00

船長のアナウンスが停泊作業の完了を知らせている。
客船用の港のないアマルフィでは、沖に錨が下ろされ、停泊するのだ。
今日の下船はテンダーボート、つまり小船で行われる。
小船といっても1回に100人以上を楽に運んでしまう。
複数の小船で3~4回も往復すれば、ほとんどの乗客がアマルフィの港へと渡ることができる。
大型客船だとこうはいかないだろう。
 
 

9:00

ゆっくりと朝食を楽しんだ私は「GANG WAY」のサインに従い、デッキ3に下りた。
水面ぎりぎりに下船のための臨時の足場が設置されている。
両腕を船員にしっかりと支えられ、テンダーボートへと乗り込む。
波の加減で足場は20~30cmほど上下するのでタイミングを見計らって飛び乗る。スリル満点だ。
テンダーボートのエンジンがかかり、いよいよ港へ向けて出発だ。
目の前でアマルフィの街がどんどん大きくなっていく。カラフルな家並に視界がおおわれていく。
港に下りた私は乗客の流れに従って、そのまま街へ向かった。
青いタイルの「港の門(Porta della Marina)」が街への入り口だ。
くぐってほんの数十歩でドゥオモ広場に出る。見上げると、大聖堂(ドゥオモ)がそびえていた。
ファサードが薄いため、海からはその姿が見えない。
この広場にきて初めて出くわす荘厳な姿に、感動もひとしおだ。
 

9:30

ドゥオモの頂上からの景色を確かめたくて、足が本能的に教会の階段へと向かう。
最上段で振り返ると、はるか彼方にはオーシャニアの姿が…。
さらにその先にある教会の裏手の丘を目指してのぼる。
迷路のような白壁のトンネルがどこまでも続いている。
途中、両手に荷物をかかえた男性の一団とすれ違う。彼らは毎日ここを上り下りしているのだろうか。
日々の生活そのものが運動不足とは無縁なのがうらやましい。
長い迷路をくぐり抜けると、いきなり視界が開け、街を一望に見渡せる丘の頂上に出た。
レモン畑が広がるその下にアマルフィの街が、そして、青いティレニア海にはオーシャニア・リビエラの勇姿が…。
気がつくと太陽はかなりあがっていて、海と船を照らしている。
レモンの香りを含んだ風が心地いい。身体が勝手に反応し、私は深呼吸をした。
 

10:00

再び、広場に下りた私は内陸へと向かう一本道を進んだ。
左右にはカフェや土産店がぎっしりと並んでいる。土産店の軒先にはどこもカラフルなボトルが目立つ。
さまざまな果実の風味がするリキュールはアマルフィの特産だ。
イタリア人はレモン風味のリキュール(レモンチェロ)を食後酒として好む。
さらに歩き続けると、魚市場やパン屋、スーパーなど、生活感のある風景に変わった。
だが、そんな街も300mほどいったところでおしまいだ。
アマルフィは本当に小さい街なのだ。
レモンチェロを1瓶だけ買った私はドゥオモ広場のカフェでカプチーノを頼んだ。
教会の階段に目をやると、結婚式を挙げたばかりのカップルの姿があった。
(末永く、お幸せに…)
心のなかでそうつぶやいてから、私はカプチーノをひとくちすすった。
 

11:00

アマルフィの港からは、隣街ポジターノまでのバスが30分置きに出ている。
バス停のタバコ屋でチケットを買い、私は出発間際のバスに乗り込んだ。
「ポジターノまで!」と目的地を告げると、運転手は無言でうなづいた。
バスは切り立った崖沿いの一本道を猛スピードで飛ばす。
クラクションを鳴らしっぱなしなのは、安全対策上やむを得ない。
外からきた車が、時折、すれ違いができずに立ち往生している。
 
40分ほどでポジターノに着いた。バス停のある場所からは街が一望に見下ろせる。
ひとたび街全体を俯瞰してしまえば、地図など必要ない。
海に続く道を足の向くまま、気の向くままに下っていく。
途中で目を引く店があったら、寄り道をすればいい。
洒落たブティックや革製品の店、絵画やアクセサリーを売る露天商など、見ていて飽きない。
ぶらぶらと小1時間かけてようやく海辺にたどりついた。
 

13:00

海辺にずらりと並ぶレストランから、居心地のようさそうな1軒を選んで、まずはビールを注文する。
店の目の前のビーチには鮮やかなパラソルの花が咲いている。
波の音と海水浴客の歓声をBGMに冷えたビールを喉に流し込み、しばしポジターノの風景に溶け込むとしよう。
 

15:00 

アマルフィへの帰路はフェリーを選んだ。
人数制限があるため、港の券売所で早めにチケットを入手してから、再度、街の散策をする。
海から見上げた街の風景やドゥオモ広場は映画「アマルフィ」でもしばしば登場した。
タイトルこそ「アマルフィ」だが、実際のシーンは「ポジターノ」で撮られたものが多い。
ポジターノのほうが確かに街としての華やかさでは勝っているし、ショップも洗練されている。
2つの街を訪れるとわかるのだが、アマルフィを「静」とすると、ポジターノには「動」のイメージがある。
 

16:00 

徐々に港に人が集まりはじめた。
アマルフィ行きのフェリーの乗客だ。
順番に細いタラップを渡り乗船がはじまる。
屋根のある1階席を選ぶか、オープンエアの2階を選ぶか…
天気がよければ絶対に2階がおすすめだ。
先ほど、バスで飛ばした崖っぷちの壮観を今度は海から眺めることができる。
アマルフィでの10時間の寄港時間も、アマルフィとポジターノの移動にバスとフェリーを使うことで2度楽しめる。
30分ほどでアマルフィの港に到着。
今朝、下り立ったときには真っさらだった自分にかなり密度の濃い記憶が満たされた。
再び、テンダーボートに乗り、リビエラへと戻る私は充足感でいっぱいだった。
 

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